mitobe haruna / 水戸部 春菜
きおくのきろく
三島市でもかなり古い、喫茶店の記憶を、三島市の住人やお客さんと共に辿る参加型の作品です。
喫茶店に残る古い写真を題材に、本を作り、お客さんに情報や感想を書き込んでもらうことで、当時の喫茶店について知っていきます。
Record of Memories
This is a participatory work that traces the memories of one of Mishima City’s oldest cafés together with local residents and its patrons.
Using old photographs preserved in the café as source material, I created a book in which visitors are invited to write down their recollections, information, and impressions. Through these accumulated entries, the memories of the café as it once was gradually come into view.
満願に出会う 2024/9/12滞在日記
三島満願芸術祭の「満願」の意味を、私は初めて芸術祭の運営メンバーと6月に顔合わせをしてから、聞いてこなかった。なぜだろうか。本来始めにに聞くべき話であって、いつもの私のやり方であれば、展覧会や芸術祭のベースとなるテーマやタイトルについてリサーチするはずが、窓口部分を置き忘れて調べ始めていた。(※運営陣から沢山お話しは聞いていたのだけど、何故か満願だけどこかに)
満願の意味を聞かずに9月半ばに突入する頃、カフェ・ラ・ペーという元々喫茶店だったらしい場所が空いていて、場所として使用できるかもしれないと、代表の山森さんからお達しがあり、三島といえばスナックだと思っていた私は、再びラ・ペーを見る目的を含めて、三島のリサーチをしに訪れた。カフェを拝見するまで少し時間が空くというので、三島市立の図書館で、三島の歴史に関する文献を読みながら行き詰まっていた私は、別のカテゴリーの三島本を読むことにした。
三島には日本の有名な文豪たちが度々訪れている。丁度、小説家である檀一雄の小説『太宰治』を読み、太宰話で盛り上がっていた私は、中尾勇氏のよる『三島文学散歩』という本を手にし、太宰治のエピソードが掲載されているページを読んでいると、満願という単語が出てきた。
「あれ」と思った私である。
約3ヶ月が経ち、ここで満願の意味を知らないことに気づいた。読むと、どうやら満願とは、太宰治が三島を舞台に書いた短編小説のタイトルだそうで、満願について分析されたものが、三島文学散歩には載っていたのである。満願に出てくる主人公と医者、医者の奥さん、そして美しい女性の、それぞれモデルになったと思われる人物の分析や、おそらく三島のこの場所が小説内の場所と景観が一致するのではないか、など、とても細やかに書かれていて、もしかしたら、三島満願芸術祭の満願の意味は、太宰治の満願から来ているのではないか?と思い、確認すると、どうやらそこから来ているようで「私は図らずともひとりでに満願と会えた」と、三島をリサーチしていればいずれ必ず出会う鉄板的な代表作品との出会いに、浸っていたのである。
しかし、この中尾勇氏の著書の中での出会いがもう一つあり、これは流石に引きがいいと感じたものがある。著書の一文に「ラ・ペー喫茶店」という単語が出てきた。どうやら、小説の満願に出てくる、人物のモデルとなった愛人が営んでいたお店の一帯が、ラ・ペー喫茶店を含む広瀬川沿いを巧に利用して風情ある雰囲気を漂わせる、広瀬楼という大きな割烹料理店を営んでいたという。ラ・ペー喫茶店は私がこれから行くところではないか?と思い、他に似たような三島の喫茶店もないし、おそらくこれから展示の舞台として、拝見させていただく場所だ。なんだか縁起が良いなと思った。
この文章を書いている今この時は、ラ・ペー喫茶店を見にいく直前で、とても楽しみにしているし、しかし、展示場所として使えるかはまだわからない。願いが満たされた時には、私は外へ飛び出して、町内を一周してしまったりするが、太宰治の満願に出てくる美しい女性のように、パラソルをくるくるっと回しながら、さっさと飛ぶように歩いて、喜びを表してみたいものだと思った。
ラ・ペーのシャッターを開けたい 2024/9/13滞在日記
ラ・ペー喫茶店を午後13時半に拝見できることになった。三島満願芸術祭のボランティアさんで窓口係と名乗るおっしーが、仕事の半休をとり、スーツを着て革靴を履いて、同行してくれた。私はというと、知人が描いた奇妙で可愛いラッコをシルクスクリーンで刷ったエプロン姿で来てしまい、気難しい大家さんだったらまずいかも、と思いつつ、おっしーがラ・ペーの前で大家さんに電話をした。すると、明るい女性の声が聞こえてきた。ワンコが吠える声もして、シャッターを少し開けてくれた。裏口から回って入ってくださいとのことだったので、裏口から回ると、明るくて可愛らしい大家さんのヒロミさんと、ふわふわのマロンが番犬ばりの勢いでヒロミさんに抱えられて、出迎えてくれた。
ヒロミさんは、電話口同様とても明るく、花やかで、誰からも好かれそうなお人柄だった。マロンはヒロミさんを守るかのように、ふわふわの毛をゆらしながら吠えていた。
早速今は使われていない店内も見させてもらった。
居心地の良さそうなカウンターや、綺麗に掃除された床、当時使われていたであろうおしゃれな椅子たち、少し歩いてシャッター側に立って、すーっと一本通ったカウンターの方向を見ると、陽の入り方がとても綺麗で、大正ロマンを感じさせる気持ちの良い空間だった。
ラ・ペーは、ヒロミさんのおじいさんの代から始まった、どうやら三島でもかなり古い喫茶店とのことで、昔の有名な俳優さんたちが沢山来るような場所であったこと、昔はララかラ・ペーか、という流れがあったことなど、ヒロミさんは先代から聞いたであろう話を沢山してくれた。(ララとは、太宰治が最も好んだ洋菓子店と伝えられていて、それを知った私も昨日行こうとしたところ、1ヶ月前に閉店していた。)
ヒロミさんに、もう喫茶店はやらないんですか?と聞くと、どうやらやりたい気持ちが残っているようで、その気持ちもあり、床は綺麗にしているし、キッチンの水は通っているし、電気も全てつくようになっている。ラ・ペーの看板も残っており、看板については、外しても良いんじゃないかと言われているけれど、なかなか外せない、とおっしゃていて、そんなヒロミさんの様子に、私は、気持ちがつのっていく。
昔の貴重な白黒写真も沢山残っていて、もしかしたら太宰さんが載ってるかもれませんね、などと私は言いなながら、ヒロミさんのご家族の写真や、当時喫茶店に来ていたお客さんたちの記録を眺めていた。
この芸術祭のテーマには、シャッターをあける、というのが主軸にある。であれば、私はラ・ペーのシャッターを開けたいなと思った。芸術祭が終わったとしても、ヒロミさんの明るい接客と共に残り続ける場所にしていきたいと思ったのだ。
ヒロミさんは、作家さんのインスピレーションでなんでもやっていいとおっしゃっていただいて、最後に連絡先を交換し、次は9月末に、と約束をして、お店を後にした。
ラ・ペーのすぐそばを流れる源平川がとても綺麗で、でかい犬がびしょびしょになりながら泳いでいて、とにかく私はとてもとてもとても楽しみだなと伝えたい。
制作年:2024
サイズ:サイズ可変(参加型インスタレーション)
場所:喫茶ラ・ぺー
三島満願芸術祭
会期 : 2024年11月2日(土)ー12月1日(日)
開催場所 : 静岡県三島市
キュレーター
青木彬
アーティスト
Canis Lupus Familiaris(占部史人・三井淑香)
小林万里子
水戸部春菜
運営:三島満願芸術祭実行委員会
支援:アーツカウンシルしずおか
後援:静岡県、三島市、三島市教育委員会、三島市観光協会
三島商工会議所、伊豆箱根鉄道、三島信用金庫
Photo by Haruna Mitobe